氷が水に浮くのは、実は自然界の大例外。この「当たり前」が消えると、湖の生き物は冬を越せなくなる。
グラスの氷が浮くのを、私たちは当たり前だと思っています。しかし自然界では、固体が液体より軽い物質はごくわずかな例外で、ほとんどの物質は固体になると縮んで重くなり、沈みます。水が例外なのは、水分子どうしをつなぐ「水素結合」が、氷になるときにすき間の多い結晶構造を作るから。氷の密度は約0.92で、液体の水(1.00)より約8%も軽いのです。ペットボトルの水を凍らせると膨らむのも、同じ理由です。
スライダーで氷の密度を1.00より重くしてみてください。冬の湖で起きることが一変します。今の世界では、氷は湖面に浮いてフタになり、それより下の水を冷気から守ります。しかも水は約4℃でいちばん重くなる性質があるため、湖底には4℃前後の水がたまり、魚たちはそこで冬を越せます。ところが氷が沈む世界では、できた氷が次々と底に沈み、湖は底から丸ごと凍りついていきます。文部科学省の資料も、もし固体の水が液体より重ければ「湖の水はどこも0℃になって凍ってしまい、魚も生きていられない」と説明しています。
さらに深刻なのは、その後です。底まで凍った湖は、春になっても簡単には解けません。太陽の光は水面近くで吸収されてしまい、湖底の氷までは届きにくいからです。毎年の冬のたびに氷が積み残されていけば、湖や浅い海は生き物の住めない場所になっていく——氷が浮くという小さな例外が、水の中の生態系全体を冬から守っている、と言えるのです。
このサイトでは、距離や傾きや大気など、地球の「設定」のちょうどよさを見てきました。この記事の主役はもっと足元にあります。水という物質そのものが、生命にとって都合のよい例外だらけなのです。氷が浮くこと。4℃で最も重くなること。温まりにくく冷めにくいこと(大きな熱容量)。蒸発するときに大きな熱を奪うこと(汗が体を冷やす仕組み)。地球の住みやすさは、宇宙の設定だけでなく、コップの中の化学にも支えられています。