約40億年前、空から天体が降り続ける時代が本当にあった。その世界が続いていたら——そして人類は今、初めて反撃を始めた。
月の表面を埋めつくすクレーターは、太陽系がかつて「衝突だらけ」だったことの記録です。アポロ計画が持ち帰った月の石を年代測定すると、衝突で溶けた岩石の多くが約41〜38億年前という短い期間に集中していました。ここから、この時期に月や地球に天体が集中豪雨のように降り注いだとする「後期重爆撃期」という考えが生まれました。原因としては、木星など巨大惑星の軌道が動いて小天体の軌道をかき乱した、とする説が有力視されていますが、広く合意された結論はまだなく、そもそも本当に「集中」していたのか再検討する研究者もいます。ここでも、答えは現在進行形で動いています。
頻度こそ激減しましたが、衝突の歴史は続いています。約6600万年前、直径約10kmの小惑星がメキシコ沖に落ち、幅約200kmのチクシュルーブ・クレーターを作りました。巻き上げられた塵が太陽光をさえぎって地球全体が寒冷化し、恐竜を含む生物種の約75%が絶滅したと考えられています。さらに約8億年前にも、月のクレーター解析から「小惑星シャワー」と呼べる時期があったことがわかっており、地球には月の20〜25倍もの量が降ったと見積もられています。スライダーで頻度を上げるほど、地球はこうした時代の空に近づいていきます。
意外なことに、衝突は破壊だけをもたらしたわけではありません。この時期に衝突した隕石や彗星が、地球の水や、生命の材料になる有機物を運んできたと考える研究者も多くいます。恐竜を絶滅させたチクシュルーブでさえ、衝突地点では約3万年後に熱水の環境が生まれ、海洋生物が繁栄したことがわかっています。降ってくる空は生命を脅かすと同時に、材料を配達してもいた——このアンビバレンスが、衝突の歴史の面白いところです。
2022年9月26日、NASAの探査機DART(質量579kg)が、小惑星ディモルフォスに秒速6.1kmで体当たりしました。狙いは破壊ではなく、衝突の勢いで小惑星の軌道をわずかに変えられるかを確かめること——人類初の本格的なプラネタリーディフェンス(地球防衛)実験です。結果は成功。地球の生き物は40億年間、降ってくる空をただ受け入れるしかありませんでしたが、その星に生まれた生命が、初めて自分の星を守る手段を実験しはじめたのです。恐竜には、できなかったことです。