目に見えないバリアが止まった日。オーロラが赤道まで降り、火星の未来が見えてくる。
地球の中心では、溶けた鉄の対流が発電機(ダイナモ)のように働いて、地球全体を包む磁場をつくっています。この地磁気は、太陽から絶えず吹きつける電気を帯びた粒子の風「太陽風」を受け流す見えないバリア(磁気圏)の正体です。磁場が消えると、このバリアがなくなります。
オーロラは、太陽風の粒子が磁場に導かれて極地方の大気に飛び込み、光る現象です。いつも高緯度でしか見られないのは、磁場が粒子を極へ集めているから。バリアが弱れば、その光のカーテンは低い緯度まで降りてきます。実際、磁場が消えなくても強い太陽嵐が起きるとこれは起こります。1989年3月の大磁気嵐では、オーロラがテキサスやフロリダでも見え、カナダ・ケベック州では送電網が9時間止まり、約600万人が停電に見舞われました。磁場が常時弱い世界では、こうした通信・送電トラブルが日常になります。
「磁場が消えたら生命が即滅亡」というほど単純ではありません。地球には大気そのものによる分厚い放射線の盾もあり、地磁気は過去に何度も弱まったり逆転したりしてきました。いちばん最近の逆転は約77万年前で、その地層が日本の千葉県市原市に世界一よく残っているため、この時代は「チバニアン(千葉の時代)」と名づけられています。逆転のたびに生命が絶滅した証拠は見つかっていません。ただし逆転の最中は磁場が弱まるので、そのぶん宇宙放射線は増えたと考えられています。
磁場を失った惑星の末路は、すぐ隣にあります。火星です。火星はかつて地球程度の厚い大気(0.5気圧以上)と海を持っていたと考えられていますが、約40億年前に磁場を失いました。以来、太陽風に少しずつ大気を剥ぎ取られ続け、いまや気圧は地球の170分の1、平均−63℃の乾いた星になっています。磁場の役目は「今日の命を守る」より「何億年ぶんの空気を守り続ける」ことの方が大きい。テラちゃんの仲間、NASAの探査機メイブンは、火星のこの大気流出を今も観測しています。