潮が止まり、地軸がぐらつき、夜がまっくらになる。相棒のいない地球の話。
潮を起こしているのは月だけではありません。太陽の潮汐力も月の約半分あります。だから月が消えても潮は完全には止まらず、いまの1/3程度の穏やかな満ち引きが残ります。それでも干潟は狭くなり、潮の満ち引きに合わせて暮らす貝・カニ・渡り鳥、そして潮を読む漁業は、大きな作戦変更を迫られます。
地球の傾き23.4°が何十億年も安定しているのは、大きな月が重力でジャイロのように支えてくれているから。大きな月を持たない火星の自転軸は、シミュレーション研究によれば長い年月で数十度の幅で大きく変動してきたと考えられています。地軸が暴れれば気候も暴れる──「もしも地軸が傾いてなかったら」で見た「傾きすぎの怖さ」が、数千万年ごとにランダムで襲ってくる世界です。
月の潮汐は地球の自転のブレーキでもあります(いまも1日は100年に約2ミリ秒ずつ伸びています)。もし最初から月がなければ、このブレーキの大部分が働かず、太古の速い自転がかなり保たれたまま──1日はいまよりずっと短かったと考えられます。太陽の潮汐も月の半分ほどあるので、まったく減速しないわけではありませんが。
満月の夜の明るさは、夜行性の動物の狩り、海鳥の移動、サンゴの一斉産卵のタイミングまで支えています。月のない夜空は星明かりだけ。人類の歴史も変わったはずです──暦はつくれたでしょうか?「1か月」という単位は、そもそも存在しません。