空に毎晩かかる、動かない光のアーチ。実は約4億6600万年前、地球にも環があったかもしれない——2024年の研究が波紋を広げている。
惑星の環は、材料さえあれば自然にできます。天体が惑星に近づきすぎると、惑星の引力が天体を引き裂いてしまう距離があり、これをロッシュ限界といいます。地球の場合、中心から半径の約3倍——およそ1万9000kmより内側です。この線を越えて近づいた天体は潮汐の力でばらばらに砕け、破片は赤道の上空に広がって、薄い円盤状の環になります。土星や木星の環も、ほとんどがロッシュ限界の内側にあります。つまり環とは、衛星になりそこねた破片たちの姿なのです。
もし今の地球に環があったら、その眺めは緯度によって一変します。環は赤道の真上に広がるので、赤道直下からは真横から見ることになり、頭の真上を横切る細い光の線に見えます。緯度が上がるにつれて環は面として見えはじめ、日本のような中緯度からは南の空にかかる巨大な光のアーチに。さらに高緯度へ行くと、アーチは地平線へ沈み、極地からは地球自身のふくらみにさえぎられて見えなくなります。環は星と違って昇りも沈みもせず、毎晩、空の同じ場所にかかり続けます。夜の環は太陽の光を反射して輝きますが、真夜中には地球自身の影が環に落ち、アーチの一部が暗く欠けます。スライダーで緯度を変えて、眺めの違いを確かめてみてください。
環は美しいだけの飾りではありません。薄いとはいえ巨大な円盤なので、地上に影を落とします。太陽が環の反対側にまわる冬には、中緯度の地域に環の影がかかり、日ざしを減らして冬をいっそう寒くすると考えられます。実際、かつての地球に環があったとする研究では、環が日射をさえぎったことが、当時の寒冷期(オルドビス紀末の氷期)の一因になった可能性が指摘されています。空のアーチの代金は、寒い冬で支払うことになるわけです。
これは完全な空想ではありません。2024年、モナシュ大学の研究チームが「約4億6600万年前の地球には環があったかもしれない」とする研究を発表しました。根拠は隕石の落ち方の偏りです。この時代(オルドビス紀)には隕石の衝突が急増したことが知られていますが、当時の大陸の位置を復元すると、21個のクレーターがすべて当時の赤道から緯度30度以内に集中していました。高緯度にも陸は広くあったのに、です。チームは、ロッシュ限界の内側で砕けた天体が赤道上空に環を作り、その破片が数千万年かけて赤道付近へ降り続けた——と考えると説明がつくとしています。環は最大で4000万年ほど存在した可能性があるとのこと。大昔の空を見上げた三葉虫たちは、光のアーチを見ていたのかもしれません。