潮の満ち引きは8倍、空の月は2倍の大きさに。距離をいじると、月の「引き裂く力」が牙をむく。
潮の満ち引きを起こしているのは、月が地球を引っぱる力の「場所による差」——起潮力(潮汐力)です。この力のクセは、距離の3乗に反比例すること。だから月までの距離を半分にすると、潮汐力は2×2×2で8倍にもなります。スライダーで月を近づけると、潮の大きさがぐんぐん跳ね上がるのはこのためです。今でも潮位差が大きい湾では満ち引きが十数mに達しますが、月が半分の距離なら、世界中の海辺が想像を超える満ち引きに襲われることになります。
距離が半分になれば、見かけの大きさは単純に2倍。夜空にいつもの倍の月が浮かぶ、迫力ある光景になります。逆にスライダーを右に振って月を遠ざけると、月は小さくしぼみ、潮の満ち引きも穏やかになっていきます。潮汐力の効き方が「距離の3乗」なので、少し遠ざけるだけで潮の力は急激に弱まる——このカーブの急さこそ、月と地球の絶妙な間合いを物語っています。
これは空想だけの話ではありません。月は誕生した頃、今よりはるかに地球の近くにありました。そして今も、月は毎年約3.8cmずつ地球から遠ざかっています(アポロが月に置いた反射鏡へのレーザー測距で精密に測られています)。約40億年前の空には、今よりずっと大きな月がかかり、桁違いに巨大な潮が海を洗っていたと考えられます。あなたがスライダーを近づける操作は、地球の遠い過去をのぞくタイムマシンでもあるのです。
月が遠ざかるのには理由があります。地球の自転が生む潮のふくらみが、月をわずかに前へ引っぱって軌道を押し上げ、その反動で地球の自転はほんの少しずつ遅くなっているのです。つまり1日は、長い時間をかけて少しずつ伸びています。自転と月は、潮を通じてエネルギーをやりとりする相棒同士。月の満ち引きは、ただの海の上下ではなく、地球と月が今も力を及ぼし合っている証拠なのです。