実はもう入れかわり続けている。地軸は約2万6000年かけてコマのように首を振り、北極星の座は星から星へリレーされていく。
夜空で唯一動かない星、北極星。しかし「北極星」とは星の名前ではなく、たまたま地軸の延長線上にいる星に与えられる称号です。今その座にいるのは、こぐま座のポラリス。実はポラリスでさえ天の北極にぴったり重なってはおらず、毎晩ごく小さな円を描いています。そしてこの称号は、永遠にポラリスのものではありません。地軸の向きそのものが、ゆっくりと動いているからです。
地球は完全な球ではなく、自転の遠心力で赤道方向にすこしふくらんだ形をしています。月と太陽の引力はこのふくらみを引っぱり、傾いた地軸を起こそうとする力を生みます。すると地軸は倒れる代わりに、傾き23.4度を保ったまま向きだけをゆっくり回しはじめます。たとえるなら、回っているコマの軸が、傾いたまま円を描いて首を振る動きです。これを歳差(さいさ)といい、地軸の先は約2万6000年かけて空に大きな円を1周します。紀元前2世紀、ヒッパルコスが星の記録の比較から見抜いた、空の最も長いリズムのひとつです。
地軸の先が円を描くなら、その円周の近くにある星が、順番に「北極星」になります。約5000年前、ピラミッドが築かれたころの北極星はりゅう座のトゥバンでした。現在はポラリス。約2000年後にはケフェウス座のエライへ、約8000年後にははくちょう座のデネブへ、そして約1万3000年後には、七夕のおりひめ星ベガが北極星になります。ベガは全天でも指折りの明るい1等星なので、未来の旅人にはずいぶん頼もしい目印です(ただし円からややずれた位置なので、精度はいまひとつ)。そして約2万6000年後、称号はふたたびポラリスへ帰ってきます。
歳差の影響は北極星だけではありません。地軸の向きが半周した約1万3000年後には、地球の傾きと季節の関係が今と逆になり、いま夏の夜に見える星座が冬に、冬の星座が夏に見えるようになります。オリオン座が夏の星座になる時代が来るのです。さらに、この首振りは氷期と間氷期のリズムを生むミランコビッチ・サイクルの一員でもあります。約2.6万年の歳差、約4万年の地軸の傾きの変化、約10万年の軌道の変化——夜空の目印の交代と氷期の訪れが、同じ「地球のゆらぎ」から生まれているのです。