最初の8分19秒、地球の誰も気づかない。空はいつも通り明るい。そのあいだ、私たちは「もう存在しない太陽」を見ている。
太陽がこの瞬間に忽然と消えたとしても、地球はしばらくまったくいつも通りです。空は青く、太陽はまぶしく輝いて見えます。理由は、光の速さが有限だから。太陽から地球までの約1億5000万kmを光が渡るには約8分19秒かかります。つまり私たちがいつも見ている太陽は、常に8分19秒前の姿。消えた事実が光として届くまで、地球の誰一人それを知りません。私たちは、すでに存在しない太陽を見つめ続けることになります。
スライダーを進めて8分19秒に達すると、空から太陽が消え、世界は暗転します。そして同じ瞬間に、もう一つ大事なことが起こります。地球を軌道につなぎとめていた太陽の引力も、消えるのです。ここは少し意外かもしれません。かつて重力は「瞬時に伝わる」と考えられていましたが、現在の物理学では、重力の変化も光と同じ速さで伝わるとされています。実際、2017年に観測された重力波は、光とほぼ同時に地球へ届き、この考えを裏づけました。だから光が消える瞬間まで、地球はいつも通り太陽のまわりを回り続けます。
太陽の引力を失った地球は、それまで円を描かせていた"ひも"を切られたボールのように、その瞬間の進行方向へまっすぐ飛び出していきます。行き先は、暗い宇宙の彼方。もう二度と決まった軌道には戻れません。ただし慌てる必要はありません。地球はしばらく、慣性でそのまま宇宙を旅していくだけで、バラバラになったりはしません。変わるのは、行き先です。
光を失った地球で本当にこわいのは、暗さより寒さです。熱源を断たれた地表の温度は下がりはじめ、数日から数週間で氷点下へ。やがて海の表面も凍っていきます。ただし地球には海の巨大な熱や、地下からの熱があるため、全部がすぐに凍りつくわけではありません。深い海の底や地熱のそばでは、太陽なしでも生きられる生き物がしばらく残るかもしれない、とも考えられています。太陽のありがたさは、消えてはじめて骨身にしみるのです。