足もとの地面の下には、6371kmの未知の世界。人類が掘れたのは、たったの12km——想像のエレベーターで、地球のまんなかへ。
「まっすぐ掘ったら、どこに出るんだろう」——だれもが一度は考える穴。人類は本気で挑戦したことがあります。旧ソ連が20年以上かけて掘ったコラ半島超深度掘削坑は、深さ1万2262m。今も破られていない世界記録です。それでも地球の中心までの距離6371kmと比べれば、わずか0.2%。地下の温度が予想を超えて約180℃に達し、機械が耐えられずに計画は中止されました。それより深い世界のことは、地球をつたわる地震の波を聴診器のかわりにして調べています。
地球の中身は、たとえるなら、ゆで卵に似ています。うすい殻が地殻(厚さ5〜70km)、たっぷりの白身がマントル(深さ約2900kmまで)、まんなかの黄身が核です。マントルは岩石の層で、地球の体積の大部分をしめる主役。固体なのに、何万年という長い時間でみると熱でゆっくり流れていて、この流れがプレートを動かし、山や火山を作る原動力になっています。エレベーターの窓の外は、赤く熱い岩の世界が2900kmぶん続きます。
深さ2900kmで景色は一変します。ここからは岩ではなく金属、どろどろにとけた鉄とニッケルの海(外核)です。この鉄の海が流れることで電気が生まれ、地球はひとつの大きな磁石になっています。方位磁針が北を指すのも、オーロラが光るのも、じつはこの足もと2900kmの海のおかげ。さらに深さ約5100kmから中心までは、猛烈な圧力で鉄が固まった内核です。中心の温度は約5000〜6000℃——太陽の表面と同じくらいの熱さが、いまこの瞬間も足の下にあります。
最後に名物の思考実験を。もし熱にも圧力にも耐えられる貫通トンネルがあって、そこに飛びこんだら——重力にぐんぐん加速され、約19分後、時速2万kmを超えるスピードで無重力の中心を通過。そこからは逆に減速していき、合計約40分(計算のしかたで38〜42分)で反対側の地面にぴたりと到着します。ただし着いた瞬間にどこかにつかまらないと、また落ちて、永遠の往復が始まります。もうひとつ落とし穴を。日本の真裏はブラジルではなく、じつは大西洋のどまんなかです。